12月5日に水産海洋学会の地域研究集会「伊勢・三河湾の環境と漁業を考える-豊
かな海と魅力ある漁業の再生を目指して」に出席した。コンビーナの一人、知多農林
水事の黒田伸郎さんは、名大水圏(西条研)のOBである。集会としてのまとめは水産
海洋の学会誌に掲載されると思うが、ここでは簡単に内容をまとめ、感想を述べる。
まず基調講演の印南さん(愛知大)は民俗学の研究者で、三河湾周辺で最近ほとん
どなくなってしまった海草・海藻について、以前は肥料の他、石風呂など様々な用途
に利用されていて、資源としてだけでなく、文化も支え、管理もされていたとのこと
を指摘した。
三重水研の水野さんは、浅海定線データや漁獲統計などで最近の50から20年間程度
の変化を示し、栄養塩の総量規制によって栄養塩やクロロフィルなどが減少している
にもかかわらず貧酸素状態が解消されず、かえってこれ以上の栄養塩供給の不足は一
部の漁獲の減少につながる可能性もあることを指摘した(ただし、これにはまだまだ
議論があった)。一方の黒田さんは、古蔵書や聞き取りで高緯度経済成長期以前の漁
場環境の様子を調査し、1日1隻あたりの漁獲量自体は減少していないが以前は市場
に回らない魚は肥料等で利用していたことや、アサリは現在ほどの需要がなかったこ
と、貧酸素は湾中央部だけで発生し周辺では漁獲ができたこと、さらに漁師さんたち
は河口堰の運用後の底質変化が漁業に大きな影響を与えていると認識していることを
指摘した。
また、愛知県水試の宮脇さんは混穫物として、昔は多くなかったヒトデ(特にスナ
ヒトデ)が多く、それが海中投棄されていること、これが貧酸素と関係している可能
性を指摘した。また、岡本さんは三河湾の貝類の漁業について述べ、埋め立て等に
よって漁場が消失して減少したハマグリや赤貝と、むしろ漁獲は増加しているが貧酸
素化で不安定化しているアサリやトリガイの2つのグループがあることを指摘した。
総合討論では、二つの漁協の組合長さんが、漁業が可能な自然環境を守るととも
に、後継者ができるような漁業者の所得を確保できるような価格の安定化が必要であ
ることを述べて終わった。
個人的には、伊勢湾・三河湾は大都市の近郊の内湾であるにもかかわらず、まだま
だ漁場としてもかなりの生産力があり、今後流域圏としてうまく管理していけば、ま
さに「豊かな海」として利用していくことが可能ではないかと感じられた。また科学
的なデータを取得していなかなければならないことはもちろんであるが、今あるデー
タについてもまだまだ解析不足であること、さらに科学的データになりにくい事実や
文化的な知見の重要性も明らかであった。特に、栄養塩の総量規制への批判はあるも
のの、伊勢湾・三河湾を全て平均してでは議論ができないことや、以前は海藻や混穫
物の肥料等への利用が盛んであったことは、持続的な物質循環を考える上で重要であ
ると思われた。また今回は水産系の研究者と漁業者の集会であったが、陸域も含めた
議論も必要であり、まさに名古屋大学のGCOEでも期待される部分ではないだろうか。