2009年12月21日月曜日

米本昌平さんの講演

12月21日、今日、名古屋大で名古屋大学の客員である東京大学先端科学技術研究センターの米本昌平さんの講演があった。科学外交が専門の方で、いくつも面白い点があった。国境を越えて研究を行なう研究集団が認識共同体を形成することは、まさに私たちが特にNOWPAPの活動等の日中韓で目指そうとしていることだが、実際にはそれをどのように政策に反映していくかのルートが余りはっきりしていない。講演では、今までは官僚がになっていた政策提言を、民主党政権ではやれなくなるのであれば、大学がそれをやってもよいのではないかという提言だった。アメリカではロビー活動と呼ばれている部分が確かに日本にはかけている。また欧州のように先進国同士でない場合、出資している先進国がリーダーシップをとるとあまりよくないとの主張も共感できた。日中韓では韓国にリーダーシップを取ってもらう(あるいは言いだしっぺになってもらう)のが、一番うまくいくような気がしている。温暖化のような世界での環境外交も重要だが、日中韓やアジアを中心とした環境外交も日本としては積極的に進めていく必要があると思うが。一方で環境外交が大きく動くのは、政治的な外交に大きな変化があったときであるとのことが事実であれば、そのようなタイミングが来るまでしっかりした研究外交をして、基礎を作っておくべきだということになるのだろう。

2009年12月20日日曜日

【伊勢湾・三河湾と川の環境問題にどう取り組むのか】~国の政策とNGOの役割~

12月20日は中部の環境を考える会の主催した【伊勢湾・三河湾と川の環境問題にどう取り組むのか】~国の政策とNGOの役割~に(一市民として?)参加した。村上哲生さん(名女大)は川の視点からダム建設の問題点を語り、特に付着藻類の変化によって鮎の味が変化する点は面白かった。清野聡子さん(東大)は、沿岸環境保全に関する法制度の歴史に触れながら、生物多様性条約COP10に同期して日本に海洋保護区を設定する必要性を述べた。関口秀夫さん(三重大)は海洋学的な伊勢湾の特徴について述べ、流域での人間生活の変化による富栄養化によって貧酸素が発生することの必然性を述べた。3人とも環境認識と予測の難しさとともに、市民によるデータ収集への参加や監視が大切であることを訴えたように思う。質疑の時間が短く、参加者がどのように受け止めたのかはあまりはっきりわからなかったが、今回集まったのは少人数(30名ほど)ながらこのような会が30年近く続いていることはすばらしい。今後、海の環境に関する議論もぜひ続けていってほしい。

2009年12月18日金曜日

大分水試


17日は宇宙利用促進調整費の打ち合わせのために大分県佐伯の水産試験場を訪ねた。この予算は宇宙の利用を促進するために今年から作られたもので、政権交代で執行されるかが心配であったが無事開始された。私が代表となり、大分県水試の宮村さん、瀬戸内水研の渡邊さん、東大農学生命科学の古谷さんと一緒にリモートセンシングデータを利用した赤潮の被害軽減の実証実験という課題で採択された。

大分県の豊後水道沿岸では毎年のように赤潮が発生しており、衛星データを利用して養殖海域に赤潮が来るのを予測した実績もすでにあり、このプロジェクトで重要な役割を果たしてくれる。県も予算が厳しく、このような外部資金を取ることは重要と認識しているようである。夜は卒業生のSS君も交えて、おいしい関サバをいただき、その後別府の温泉つきビジネスホテルに宿泊した。SS君も頑張っているようである。

18日は福岡に向かい、長崎大の社会人博士課程の学生である福岡県の安藤さんとお昼を食べ、博士論文や周防灘の赤潮の話をした。昼過ぎの飛行機で大学に戻りセミナーに出席。今年の出張の嵐もこれで一段落。


2009年12月15日火曜日

練習船共同利用

15日は長崎大学水産学部の練習船共同利用の委員会で長崎に出張した。水産系の学部・学科では、長崎大、北大、東京海洋大、鹿児島大、三重大、広島大が練習船を所有している。これらはそれぞれの大学内部での利用はもちろん、他大学や研究機関などにも利用されてきたが、これまではあまり共同利用や公募のような制度がはっきりしていなかった。そこで今年から公募を開始した。なかなか乗船経験のできる施設はない上、長崎大学ではこれまでも学外の人に利用してもらう実績があったため、今回の公募でもそれなりの数の公募があった。一方で、練習船が古くなりつつあり、そろそろ新しい船を準備しなければならないが、国の予算状況はもちろん厳しい。しかし、海に囲まれた日本としては、海の教育・研究は欠かせないはずで、練習船の役割は大きいはずである。海を含めた地球科学や造船の関係者の中にも、船に乗ったことがない人が多いことはおかしなことである。ぜひ練習船を使った教育の機会を増やしていってほしいところである。

長崎駅前でばったりと広島在住の長崎大学時代の教え子IYさん(旧姓ITさん)に出会った。

2009年12月14日月曜日

スタッフ移動

前任の才野教授時代から特任準教授で来ていたSandric君が、明日で研究室を離れる。シンガポール大学に無事就職が決まったそうだ。日本では研究者の就職のなかなか厳しい時代であり、外国でも就職が決まってくれて良かった。今後もぜひ研究協力をしたいところである。

2009年12月11日金曜日

第6回日韓海色ワークショップ




12月10/11日で第6回日韓海色ワークショップを韓国海洋研究所の主催で開催しました。このワークショップは7年前に韓国海洋研究所のアンさんといっしょに始めたもので、1年おきに日本と韓国で開催しています。今回は韓国からは38名、日本から私のグループ5名を含む13名、中国から1名が参加しました。日韓の衛星計画、経年変動、赤潮、アルゴリズム、大気補正など面白い内容が多くありました。韓国の静止海色衛星が来年春に打ち上げられるということで、韓国側はかなり気合が入っていました。特に面白かったのは黄海で問題となったアオノリの大発生は中国沿岸の海苔養殖と関係があるという論文をさらに数値計算で解析した済州大のMoonさんの発表でしょうか。2日目の午後は、黄海大海洋生態系(YSLME)プロジェクトのサポートで行なっている黄海・東シナ海のローカルアルゴリズム開発のまとめを行い、今後もこの日中韓の協力を何とか継続することで合意しました。東海大の虎谷さんの大気補正も期待ができそうです。

1日目の晩は、鴨料理の後、カラオケで盛り上がりましたが、いつもながら韓国人のパワーには圧倒されました。また日本のほとんどの研究費では認められていませんが、一次会の食事の費用ぐらいは研究費で出せるようです。これは本来国際共同研究のような時には重要だと思われます。2日目の晩は、フグ料理でした。


2009年12月9日水曜日

相模湾研究集会

12月7日に当センターの研究集会「沿岸域の海洋環境変動と生態系変動」(代表:東京海洋大学 石丸隆)を開催した。この研究集会は昨日開催したCREST/SORSTで東京海洋大学と名古屋大学が中心におこなってきた相模湾での研究・観測の現状をまとめ、今後をどうつなげていくかに関して議論するための集会であった。東京海洋大学から石丸さん・神田さんと大学院生3名、名古屋大学からAndreas・Sandric・EKO・三野・高橋が発表し、そのほか東京海洋大学から西川さん・津田さんも参加してくれた。 

相模湾は東京湾からの水や黒潮の影響が頻繁にあり、単純な系ではないが、CREST/SORSTの10年にわたる研究は一次生産を中心にそこでの物理・化学・生物プロセスとそのつながりを明らかにできつつあると感じられた。CREST/SORSTは終了するが、相模湾では他にも多くの研究が行なわれており、それをつなげる必要があること、また比較沿岸海洋学の観点で他と比較した研究や、全体像を衛星とモデルであらわすことが必要であることなどが議論された。

また現在JAMSTECの才野さんが、私の筑波大時代の恩師で当時東京大学理学部の高橋正征先生が、伊豆沖湧昇の研究を行っていた時の1985年に川口湖で行なった集会の写真とメモを披露した。当時若手を中心に20年後(つまり今)までを見通した研究の方向性を的確に考えており、それがその通りに進んできたことは驚きに値した。最近外洋の研究は鉄や窒素固定などで大きな進展があるが、沿岸でも新たなビジョンを共有することが必要があることを感じられた。

この日はCREST/SORSTの代表である才野さんの誕生日であり、それをお祝いしながら議論が盛り上がった。



2009年12月7日月曜日

衛星リモートセンシングによる海・陸の基礎生産推定に関する国際ワークショップ

今週は7日に国際ワークショップ、8日が研究集会で、10日から11日が韓国でのワークショップとハードスケジュールです。

国際ワークショップは、前任者で現JAMSTECの才野さんの衛星リモートセンシングによる海洋基礎生産推定に関するJSTプロジェクトの最終ということで、千葉大の本多さんの陸域植生に関するプロジェクト、JAXAの新しい衛星ミッションGCOM-Cと合わせて議論するものでした。才野さん、本多さんのプロジェクトの結果として、新しい手法、プラットフォームでの海洋基礎生産、陸域植生現存量の推定手法について紹介されたほか、モデルと衛星の連携、海外での衛星による気候変動の影響に関する研究例を陸と海でそれぞれ発表してもらい、最後にJAXAの村上さんからGCOM-Cの紹介をしてもらいました。

個人的にもっともショッキングだったのは、Bigelow Marine Laboratory のGoesさんによる、ヒマラヤの氷河融解による気候変動でアラビア海で、緑色夜光虫(Green Nocticulca)による赤潮が頻発化し、深層で酸素化しているという報告でした。

面白いテーマであったと思うのですが、宣伝不足もあり、やや参加者が少なかったことが残念です。海に関しては外部の人も来てくれたのですが、陸域植生に関しては内部にも関係する研究者はいるので期待していたのですが、あまり参加がなかったようです。最近ワークショップ・シンポジウムが多すぎることも事実でしょう。裏番組ではJAXAと名古屋大学の協定のシンポジウムも開催されていたようです。


「伊勢・三河湾の環境と漁業を考える-豊 かな海と魅力ある漁業の再生を目指して」

12月5日に水産海洋学会の地域研究集会「伊勢・三河湾の環境と漁業を考える-豊
かな海と魅力ある漁業の再生を目指して」に出席した。コンビーナの一人、知多農林
水事の黒田伸郎さんは、名大水圏(西条研)のOBである。集会としてのまとめは水産
海洋の学会誌に掲載されると思うが、ここでは簡単に内容をまとめ、感想を述べる。

 まず基調講演の印南さん(愛知大)は民俗学の研究者で、三河湾周辺で最近ほとん
どなくなってしまった海草・海藻について、以前は肥料の他、石風呂など様々な用途
に利用されていて、資源としてだけでなく、文化も支え、管理もされていたとのこと
を指摘した。
 三重水研の水野さんは、浅海定線データや漁獲統計などで最近の50から20年間程度
の変化を示し、栄養塩の総量規制によって栄養塩やクロロフィルなどが減少している
にもかかわらず貧酸素状態が解消されず、かえってこれ以上の栄養塩供給の不足は一
部の漁獲の減少につながる可能性もあることを指摘した(ただし、これにはまだまだ
議論があった)。一方の黒田さんは、古蔵書や聞き取りで高緯度経済成長期以前の漁
場環境の様子を調査し、1日1隻あたりの漁獲量自体は減少していないが以前は市場
に回らない魚は肥料等で利用していたことや、アサリは現在ほどの需要がなかったこ
と、貧酸素は湾中央部だけで発生し周辺では漁獲ができたこと、さらに漁師さんたち
は河口堰の運用後の底質変化が漁業に大きな影響を与えていると認識していることを
指摘した。
 また、愛知県水試の宮脇さんは混穫物として、昔は多くなかったヒトデ(特にスナ
ヒトデ)が多く、それが海中投棄されていること、これが貧酸素と関係している可能
性を指摘した。また、岡本さんは三河湾の貝類の漁業について述べ、埋め立て等に
よって漁場が消失して減少したハマグリや赤貝と、むしろ漁獲は増加しているが貧酸
素化で不安定化しているアサリやトリガイの2つのグループがあることを指摘した。
 総合討論では、二つの漁協の組合長さんが、漁業が可能な自然環境を守るととも
に、後継者ができるような漁業者の所得を確保できるような価格の安定化が必要であ
ることを述べて終わった。

 個人的には、伊勢湾・三河湾は大都市の近郊の内湾であるにもかかわらず、まだま
だ漁場としてもかなりの生産力があり、今後流域圏としてうまく管理していけば、ま
さに「豊かな海」として利用していくことが可能ではないかと感じられた。また科学
的なデータを取得していなかなければならないことはもちろんであるが、今あるデー
タについてもまだまだ解析不足であること、さらに科学的データになりにくい事実や
文化的な知見の重要性も明らかであった。特に、栄養塩の総量規制への批判はあるも
のの、伊勢湾・三河湾を全て平均してでは議論ができないことや、以前は海藻や混穫
物の肥料等への利用が盛んであったことは、持続的な物質循環を考える上で重要であ
ると思われた。また今回は水産系の研究者と漁業者の集会であったが、陸域も含めた
議論も必要であり、まさに名古屋大学のGCOEでも期待される部分ではないだろうか。