2010年3月30日火曜日

中国長江流域研究者のセミナー


3月30日に国立環境研究所の王勤学さんとともに華東師範大学、長江水利委員会の先生方が訪問され、GCOEの一環としてセミナーが開催された。

王勤学さんは流域から海まで含めた環境研の長江プロジェクトの話をされた。1月に環境研から名大にこられたLiuさんからも陸側の研究に関して聞いており、また海側に関しては学会等で話を聞いていたが、名大で進めようとしていることとの接点も多く、今後ぜひ協力してやっていきたいところである。

一方、華東師範大学の楊凱さん、王天厚さん、蔡永立さん、長江水利委員会の叶閩さん話では、上海市がかなり水質や沿岸環境の保全に力を入れてつつあることはわかったが、都市から少し離れるとまだまだ保全が追いつかない現状が伝わってきた。以前、南京大学でも聞いたが、中国の大学の先生は政府の調査やコンサルタントをかなり請け負っているらしいが、今回の発表でもそれに近い印象があった。華東師範大学の先生方が、こちらの研究室でも共同研究をしようとしているLi Daojiさんのこともよく知っていたのはよかった。

本山の和風居酒屋「さかなやま」での懇親会、さすが店長に写真をとってもらうとこうなる。

2010年3月29日月曜日

海洋学会春季大会

3月26日から日本海洋学会だった。26日はシンポジウムだけで、私は東シナ海のシンポジウムに出席した。このシンポジウムは九州大学のプロジェクトの報告会であり、発表が九州大学の研究者に集中しすぎていることが、学会のシンポジウムとしてはやや不適切な気がした。シンポジウムの後は、沿岸環境部会の事業部会と委員会があり出席し、沿岸環境部会としての今後のシンポジウムに関して議論し,東シナ海に関する大気・海洋相互作用や沿岸による衛星利用などの提案をした。
27日は、朝から学生の発表が2件あった。1件は有明海の混合による光環境の変動への植物プランクトンの応答に関して、もう1件は東シナ海のクロロフィルに関して、衛星センサーであるSeaWiFSとMODISの比較をしたものだ。いつになく一人の準備が進んでおらず、ぎりぎりになってしまったが、何とか発表はこなしていた。物理系ではやはり大気・海洋の相互作用に関する内容が多いようだ。昼休みには、論文賞選考委員会とJOの編集委員会で、26日の晩に続きお弁当だ。夜は大学の指導教員だった高橋先生を囲む会で、懐かしい先輩方と会うことができたが、少し飲みすぎた。
28日は、総会と学会賞の受賞講演、懇談会があり、その後学会賞をもらった最近クラゲで有名な広島大学の上真一教授の受賞記念パーティーに参加した。やはり広島大学で動物プランクトンを研究していたというジャズプレーヤーの坂田明さんもこられており感激である。プランクトンに関する曲もあるようで、このような人がもっと海のことを宣伝してくれるとよい。
大学の都合で、今回は半分だけの出席となってしまった。



2010年3月16日火曜日

GCOE国際シンポジウム

3月15・16日にGCOEプロジェクト「地球学からの基礎・臨床学への展開」の国際シンポジウムアジアにおける複合的環境問題をどう解くかが開催された。基調講演として、エルンスト・フォン・ワイツゼッカー (持続的資源管理のための国際パネル共同議長・ローマクラブ会員)から「環境学ではどのように科学と政策を結びつけるか?」、武内和彦(国際連合大学副学長)から「人と自然の関係の再構築-SATOYAMAイニシアティブ」、ハンス=ペーター・デュール(マックス=プランク物理学研究所名誉理事長・ローマクラブ会員)から「物質と生命の驚異-その「現実」をいかに理解するのか」、真鍋淑郎(プリンストン大学・名古屋大学特別招聘教授) から「地球温暖化は水循環をどう変えるか」の講演があった。その他に、伊勢湾流域圏、中国を中心とした北東アジア圏、ラオスを中心とした東南アジアの各地域での活動の講演があった。
 特に印象に残ったのは、ワイツゼッカー 先生もデュール先生も、これまでの欧米的な細分化する科学と論文は限界に来ているとの発言である。たしかに、特に環境を考える場合には細分化だけでは限界が来ていることはたしかである。しかし、細分化する科学を抜きに人間の進歩は不可能であるし、全ての人間が細分化を捨てて統合化だけを目指すこともできないことは明らかである。彼らももともとは細分化した科学で卓越した業績を上げてきた科学者であり、その重要性や統合化の難しさも十分にわかっているはずであり、その上での発言と捉えられる。その点、真鍋先生はかなり現在の科学に立脚した考え方で、個人的には比較的わかりやすい。
 このGCOEでは学生や若い研究者に統合化を促すことにかなり重点がおかれているが、彼らには自分たちのある程度細分化した科学の重要性を認識してもらった上で、統合化にむけてどうしたらよいか広い知識で考えてほしい。とはいっても私が司会をした名古屋大学の地元の伊勢湾流域圏の話でさえ、非常に広い範囲の内容になり、それをどうまとめるかはまだまだこれからのチャレンジである。
 一方、竹内先生の講演では、里山をモデルにするべきであるが、同時にそれがうまくいってこなかったことを認識しなければならないことも指摘された。古いシステムにどう学び、新しい知識をどうそこに生かして新しいシステムを作るかまさにこれが統合化なのかもしれない。
 懇親会係としては、多くのスタッフの協力で全てが順調にいったことに感謝である。

2010年3月11日木曜日

黄海生態系シンポジウム


 3月11日に今度は韓国国立水産科学院主催の黄海生態系シンポジウムに招待され、全羅北道の群山大学に来ている。以前のYLSMEは韓国国立海洋研究院が中心で、ある意味似た部分もあるが、仕方がないだろう。日本人は一人で、中国人としてYSLMEにも来ていた、国家第1海洋研究所のMigyuan Zhu博士とZuelei Zhang博士が招待されていた。

 こちらは韓国の政府ベースで行なっている海洋環境モニタリングプロジェクトの報告会で、韓国・中国が政府レベルで黄海以外も含めて海洋環境に関してどのような活動をしているかがある程度わかった。両国とも非常によくやっており、日本を海洋国とどうしていえるのか疑問に思うほどであった。たしか、韓国周辺で密に定常的に行なわれているモニタリングは、皮肉なことに日本がはじめたのだったと思う。気候変動の影響が問題になっている今、長期データが貴重であるのに、日本は費用削減で最近どんどんモニタリングが減少していることが本当に困ったものである。また、韓国・中国ですでに干拓に関してかなり問題意識があり、特に韓国では政府レベルで環境修復を含め対処が始まっていることには感銘を受けた。

 最後のパネルディスカッションで意見を求められたので、1)日中韓の協力強化の必要性、2)しっかりしたモニタリング体制がないと、何かを行なったり、起きたりしたときの評価ができないこと、3)里海の概念を広める必要があることを提案した。

 また、中国の国家第1海洋研究所には、韓国との共同研究センター(所長がZhu博士)があり、今度はインドネシアと共同研究センターを作ろうとしていること、フランスともその動きがあるとのことであった。中国も着実に海洋研究外交を進めており、このようなことも日本の遅れが気になる。

 今回は韓国宮廷料理を食べさせていもらった。素材の組み合わせを大切にした料理でまさにチャングムの世界である。

 これで1月から続いた海外出張の嵐も一区切りだ。

送別会

 3月8日は研究室の送別会をした。今回は長崎大学の修士修了したMA君、長崎大学の博士課程の途中で就職が決まったTM君、長崎大学と名古屋大学で1年ずつポストドクをしたYBS君の3名がでていく。MA君は残念ながらまだ就職が決まっていないが、どんどん積極的に活動してほしい。TM君は博士途中であるが、それなりに研究も進んでいるので、とりあえず籍は残して、社会人学生として学位を狙うこととなった。就職希望の話は少しは聞いていたが、実際に活動をしていたことは知らなかったので、やや驚いたが、今後も頑張ってほしい。YBS君は韓国出身でアメリカの私と同じ大学で学位をとり、しばらくアメリカ海洋気象局で働いた後に日本に来たが、韓国の海洋研究院でポストドクとなり、今後も研究を一緒にすることになる。少しさびしくなるが、学生が外へ出て行ってこそ大学なので、みんなの今後の活躍を願う。来年度は4月から博士前期課程に一人、10月から中国人の博士後期課程が一人入学の予定で、また研究室の雰囲気も変わるかもしれない。

2010年3月7日日曜日

南京大学


 アモイのYSLMEから南京に移動し、 2月28日-3月1日に南京大学と名古屋大学の第1回共同シンポジウム「気候変化と環境」に出席した。南京大学と名古屋大学とは古くから交流があったようだが、南京大学にClimate Change Instituteが設置され、名古屋大学のGCEOが開始されたのとをあわせて、共同シンポジウム開催となった。大気の気候変動から、大気汚染、陸域生態系、水循環、水汚染等と人間生活まで広いテーマで、私は東シナ海の一次生産の変化に気候変動による長江流量の変化と富栄養化が関わっている可能性について話をした。海洋関連は私一人であったが、気候変動と東アジアの環境についてで関連する話題も多く、広い視野で勉強になるシンポジウムであった。

 例のごとく、中国側の接待は相当なもので、今年12月に名古屋大学で第2回を開催するとのことだが、お返しが大変そうである。また、在名古屋中国人のGCOE准教授のLCさんと院生のCYさんもいろいろとやってくれて助かった。彼女たちのパワーにも圧倒される。

 南京大学には地質・地形関係では海洋の研究者がいることがわかり、夏の長崎丸にも興味を持ってくれた。さらにこのシンポジウムにあわせて、10月から来る可能性のある中国人の学生が会いに来てくれて話しをすることができたのはよかった。

 南京滞在中に、地球研の長江プロジェクトが来年度は困難であることがわかり残念であったが、今年度体制を組みなおすことでチャレンジすることとなった。一方で、以前から交流のある華東師範大学のLi博士から、YSLMEと同じUNDP/GEFの枠組みで長江河口・東シナ海のプロジェクトを考えたいとのメールが来た。この枠組みを準備することは容易ではなさそうであるが、いったんできればYSLMEのように、国家間の環境保護協定のような方向に進むことが期待でき、非常に重要だと思われる。こちらも何とか進めて行きたいところである。

 中国はGoogleと仲が悪いからか、このブログを見ることができなかった。
 古い南京大学本部棟と南京市の近代建築の対比。


2010年3月3日水曜日

黄海大生態系プロジェクト(YSLME)


 2月24-26日に中国アモイで開催されたYSLME(黄海大生態系プロジェクト)の第2回科学会議に出席しました。LME(Large Marine Ecosystem)はアメリカ海洋気象省(NOAA)が海域の生態系保全のために提案した概念で、世界の大陸棚域を64海域に分けており、黄海をはじめいくつかの海域はUNDP/GEF (国連開発計画地球環境ファシリティ)からお金がでて生態系保全の研究が進められています。今回のYSLMEの会合は、韓国(韓国海洋研究院)と中国(国家第1海洋研究所)に、最近北朝鮮も参加して行なわれた5年間のプロジェクトの締めくくりで、これまで行なわれてきた研究成果をまとめ、次の継続プロジェクトを提案するための議論をする趣旨でした。

内容的には黄海全体の物理・生物・化学・漁業環境から、沿岸の干潟の管理や政策提案まで幅広く、特に興味深かったこととしては、中国と韓国が黄海中央部で共同観測行ったことや、大きな国際共同プロジェクトの中にミニプロジェクトと呼ばれる個人提案の小さなプロジェクトが多く取り上げられていたことがあります。私はリモートセンシングを利用して、この10年間の黄海のクロロフィル量は東シナ海で見られる長江の影響ははっきりせず、増加傾向があり富栄養化の影響と考えられること、YSLMEのサポートで日中韓の研究者が共同データベースを作成し、衛星データの検証と新しい手法開発をしていることを紹介しました。またNPECの寺内さんが共著で衛星データを用いて広い範囲での富栄養化の判定を行なう手法について話をしました。

日本のエチゼンクラゲに関しては中国側はまだ黄海・東シナ海で発生していることを認めたくないようでしたが、全体的に韓国と中国の研究者はうまく協力を進めているようで、さらに北朝鮮も含めて黄海の環境保全のためのコミッションを策定するような動きが進んでいるようでした。黄海周辺ではそれぞれが同じような立場でいることが幸いしているのかもしれません。東シナ海の問題となると上流・下流がはっきりしたり、領土問題や台湾の問題などもでてくるので厄介ですが、ぜひ東シナ海でもこのようなプロジェクトがあると良いと感じました。

最終日は誕生日で、おどろいたことにホテルからの差し入れがありました。